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平成21年度弁理士試験論文式筆記試験問題[国際私法]
問題
日本に住む甲国人Aは、乙国に本店を有するB銀行の東京支店において、甲国通貨建ての定期預金(以下、「本件定期預金」という。)をした。そして、Aが代表者を務める乙国法人Cが乙国のD銀行から融資を受けるに当たり、その担保として、Aは本件定期預金の通帳と印鑑をD銀行に差し入れた。その後、このB銀行東京支店の本件定期預金はAの債権者であるEから差押えを受けた。
(1) Aが本件定期預金契約を締結する際に、年齢の点で、完全な行為能力を有する成人であったか否かについては、いずれの国の法によって判断されるか。
(2) 本件定期預金契約には準拠法の明示の定めがない場合、この契約の準拠法はいずれの国の法か。
(3) AがD銀行のために設定した本件定期預金債権を目的とする担保権が有効に成立しているか否かはいずれの国の法によって判断されるか。
(4) 仮に(3)記載の担保権が有効に成立しているとして、担保権者であるD銀行とその担保目的である本件定期預金債権を差し押さえたEのいずれが優先するかはいずれの国の法によって判断されるか。
(1)について
人の行為能力は、その本国法によって定める(通則法4条1項)。制限能力者制度は、制限能力者の保護を目的とするものであり、本国法の適用が本人保護に最も資するからである。また、本人の居所地によって異なるのは好ましくなく、行為能力は恒久的な法によって規律されるのが望ましいからである。よって、本問の場合、Aが完全な行為能力を有する成人であったか否かについては、甲国法によって判断される。
ただし、法律行為の当時そのすべての当事者が法を同じくする地に在った場合に、行為地法によれば行為能力者となるべきときは、当該法律行為をした者は行為能力者とみなされる(通則法4条2項)。 取引の相手方が不測の損害を被る恐れがあるからである。この点、本問の場合、AはB銀行の東京支店において本件定期預金契約を締結している。よって、行為地法である日本国法によってAが行為能力者となるべきときは、Aは行為能力者とみなされる。
(2)について
当事者自治の趣旨により、契約に準拠法が明示されている場合は、明示された国の法律が当該契約の準拠法となる(通則法7条1項)。しかし、本問の場合、本件定期預金契約には準拠法の明示の定めがない。この点、準拠法の明示が無くとも、契約に関する諸事情から当事者が黙示により準拠法を指定したと認められる場合には、黙示に指定された国の法律が当該契約の準拠法となると解される。
本問の本件定期預金契約に関しては、日本に住む甲国人Aが、乙国に本店を有するB銀行の東京支店において、甲国通貨建ての定期預金をしている。そして、これらの諸事情からは、当事者が黙示により準拠法を指定したという意思が認められない。よって、本件定期預金契約においては、黙示による準拠法の指定がないと解される。
このように明示又は黙示による準拠法の指定が存在しない場合、当該契約の準拠法は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による(通則法8条1項)。そして、法律行為において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものであるときは、その給付を行う当事者が当該法律行為に関係する事業所を有する場合、当該事業所の所在地の法が最密接関係地法と推定される(通則法8条2項かっこ書)。本問の場合、特徴的な給付を行う当事者はB銀行であると解される。よって、本件定期預金契約の準拠法は、B銀行の東京支店の所在地の法である日本国法であると解する。
(3)について
本問において、本件定期預金債権を目的とする担保権の設定は、債権質の設定に当たる。そして、債権質については、通則法23条を類推適用して準拠法を定めるべきと解する。つまり、客体たる債権について適用すべき法によると解する。債権質についても、債務者やそれ以外の第三者との関係で債権譲渡と同様の問題が生じるからである。
よって、本問の場合、客体たる本件定期預金債権の準拠法は、本件定期預金契約の準拠法である日本国法であると解する。
(4)について
担保権者と本件定期預金債権を差し押さえた者のいずれが優先するかは、債権質の対抗要件の問題である。そして、債権質の対抗要件は実質の問題であり、債権質の準拠法によると解する。債務者に対する通知等の要件は、質権の効力を債務者その他の第三者に対して主張する為に必要な法律要件だからである。
よって、担保権者であるD銀行と本件定期預金債権を差し押さえたEのいずれが優先するかは、本件定期預金債権の準拠法である日本国法であると解する。
以上
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