審決取消請求事件(平成15(行ヒ)353号)の概説

事件の概要

 本事件は、商標登録の無効審判請求の際の請求理由に、単に「商標法4条1項15号の規定に違反してされたものであるから、同法46条1項の規定により無効とされるべきものである、詳細な理由は追って補充する」旨が記載されていたのみである場合に、該請求が有効であるかが争われた事例です。なお、審判請求がされたのは、商標法47条の除斥期間が満了する直前でした。

 つまり、除斥期間経過後に請求の具体的な理由を記載した書面を提出しても、経過前に提出した審判請求書に請求の理由として適用条文しか記載されていない場合には、その審判請求が不適法なものとなるのではないかという点が争われました。※詳細は判例検索システムで判決文を検索して下さい。

[前提] 商標法47条と4条1項15号

 商標法4条1項15号には、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標は登録を受けることができないと規定されています。

 すなわち、法は、一般的出所の混同があれば、具体的出所の混同の可能性があるものとしてその登録を排除しています(商4条1項10〜14号)。しかし、4条1項10〜14号に該当しなくとも、具体的出所の混同を生ずるおそれがある商標を登録することは法目的(商1条)に反することになります。そこで、具体的出所の混同防止のために、統括条項として4条1項15号が規定されています。

 また、商標法47条は、4条1項15号違反を理由とする商標登録の無効の審判について、商標権の設定の登録の日から5年の除斥期間内に請求しなければならない旨を規定しています。これは、4条1項15号の規定に違反する商標登録は無効とされるべきものであるが、商標登録の無効の審判が請求されることなく除斥期間が経過したときは、商標登録がされたことにより生じた既存の継続的な状態を保護するために、商標登録の有効性を争い得ないものとしたためです。

本事件の要点

 本事例の無効審判の請求書には、4条1項15号の規定に違反する旨の記載があるのみで、具体的な 無効理由を構成する事実の主張は記載されていませんでした。しかし、最高裁は、無効審判の請求人が使用している「バレンチノ」等の表示が日本の取引者や需要者に周知であること、及び、請求書に記載された請求人の名称中に「バレンチノ」の語が含まれていることなどの事情に照らせば、請求書には、本件商標は被上告人の上記表示との関係で混同を生ずるおそれがある商標である旨の無効理由の記載があるものと同視することができると認定しました。

 つまり、商標法47条の規定の趣旨からすると、4条1項15号により無効となるような商標は、本来は商標登録を受けられなかったものであり、その有効性を早期に確定させて商標権者を保護すべき強い要請がないため、除斥期間内に商標登録の無効の審判が請求され、審判請求書に当該商標登録が4条1項15号の規定に違反する旨の記載がありさえすれば、既存の継続的な状態は覆されたとみることができる、と認定しました。

 その結果、4条1項15号違反を理由とする商標登録の無効の審判請求が除斥期間を遵守するためには、除斥期間内に提出された審判請求書に、請求の理由として、当該商標登録が4条1項15号の規定に違反するものである旨の主張の記載がされていることをもって足り、4条1項15号の規定に該当すべき具体的な事実関係等に関する主張が記載されていることまでは要しないと判断されました。


私見

 本判決では、商標法47条の趣旨について特に触れており、全ての無効理由について「請求の理由に所定の規定に違反するものである旨の主張の記載がされていれば良い」、とする判決ではないと思われます。つまり、4条1項15号違反を無効理由とする審判請求については、その旨の主張の記載がされていることをもって足り、具体的な事実関係等に関する主張が記載されていることまでは要しないということです。

 ということで、限定的な事例になるので論文試験には出しにくいと思います。そのため、短答試験対策として結論だけ覚えおけば良いのではないでしょうか。

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