特許法96-100条
初学者の方は勉強を始める前に、特許庁HPで公開されている初心者向け知的財産権制度説明会のテキストを見て、知的財産権制度の概要を勉強して下さい。なお、地域におけるサービスに関する項目と、様式及び参考に関する項目は、読まなくとも結構です。
以下、
太字部が条文になります。小文字部が条文以外の暗記項目です。
特許法96条
特許権、専用実施権又は通常実施権を目的とする質権は、特許権、専用実施権若しくは通常実施権の対価又は特許発明の実施に対しその特許権者若しくは専用実施権者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行うことができる。ただし、その払渡又は引渡前に差押をしなければならない。
・質権の物上代位性についての規定である。なお、「受けるべき」とあるので、既に受け取ったものは対象とならない。
・払い渡し又は引き渡し前に差押えなければならないのは、債務者の一般財産中に組み入れられた後に優先権を認めることは他の債権者が害されるからである。
・実施料、損害賠償請求権の上にも質権の効力が認められる。
・金銭その他の物の請求権の上に質権が行われる。
特許法97条(特許権等の放棄)
第一項
特許権者は、専用実施権者、質権者又は第三十五条第一項、第七十七条第四項若しくは第七十八条第一項の規定による通常実施権者があるときは、これらの者の承諾を得た場合に限り、その特許権を放棄することができる。
・職務発明以外の法定通常実施権については規定がない。
・放棄は請求項毎に出来る。
・承諾対象者は訂正審判、訂正請求と同じである。
第二項
専用実施権者は、質権者又は第七十七条第四項の規定による通常実施権者があるときは、これらの者の承諾を得た場合に限り、その専用実施権を放棄することができる。
第三項
通常実施権者は、質権者があるときは、その承諾を得た場合に限り、その通常実施権を放棄することができる。
特許法98条(登録の効果)
第一項
次に掲げる事項は、登録しなければ、その効力を生じない。
・偽造の譲渡証書に基づき移転の登録をしたとしても効力は発生しない。
・仮登録をしておけば仮登録をした時点に遡って効力が生じる。但し、仮登録をしただけでは本条各号の効果は生じない。
第一号
特許権の移転(相続その他の一般承継によるものを除く。)、信託による変更、放棄による消滅又は処分の制限
・特許権の放棄は請求項毎にできるが、請求項毎に移転はできない。
・特許権が移転されたとしても、当然に損害賠償請求権が付随して移転するわけではない。
・処分の制限とは、仮差押、仮処分などをいう。
・一般承継の場合に、承継人がその旨を特許庁長官に届け出なかったとしても、特許権は消滅しない。
・「信託による変更」も実体的な権利変動であるため、登録が効力発生要件である旨を明確化する必要があることから、H20法改正により追加された。
第二号
専用実施権の設定、移転(相続その他の一般承継によるものを除く。)、変更、消滅(混同又は特許権の消滅によるものを除く。)又は処分の制限
・混同について除かれているのは、その前提として移転の登録があるからである。また、特許権の消滅が除かれているのは、特許権の消滅によって専用実施権も当然に消滅するからである。
・H20年改正により専用実施権の対価の額等は登録事項から除外された。
第三号
特許権又は専用実施権を目的とする質権の設定、移転(相続その他の一般承継によるものを除く。)、変更、消滅(混同又は担保する債権の消滅によるものを除く。)又は処分の制限
・債権の消滅による質権の消滅は、登録しなくとも効力が発生する。
・混同について除かれているのは、その前提として移転の登録があるからである。
第二項
前項各号の相続その他の一般承継の場合は、遅滞なく、その旨を特許庁長官に届け出なければならない。
・届出前に被相続人に対して特許庁が行った手続は有効である。
・一般承継以外(混同、特許権又は債権の消滅)は規定されていない。
特許法99条
第一項
通常実施権は、その発生後にその特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権をその後に取得した者に対しても、その効力を有する。
・通常実施権登録制度は、利用が困難であるため、実務では登録しないことが一般化していた。一方、通常実施権を保護する重要性は高まっており、登録を備えていない通常実施権者が差止請求等を受けるリスクが高まっていた。そこで、通常実施権の当然対抗制度を導入した。本改正により、通常実施権は、登録その他何らの要件を備えなくても、特許権の譲受人等に対抗することができる。
・通常実施権は指名債権に該当すると解されることから、その権利変動についての対抗要件は、民法上の指名債権一般の規定に従う。通常実施権の移転について、@特許権者等に対する対抗要件は、譲渡人から特許権者等に対する通知又は特許権者等の承諾と解される。A特許権者等以外の第三者に対する対抗要件は、譲渡人から特許権者等に対する確定日付ある通知又は特許権者等の確定日付ある承諾と解される。
第二項
第三十五条第一項、第七十九条、第八十条第一項、第八十一条、第八十二条第一項又は第百七十六条の規定による通常実施権は、登録しなくても、前項の効力を有する。
・法定通常実施権は、登録しなくとも第三者に対抗できる旨が規定されている。
第三項
通常実施権の移転、変更、消滅若しくは処分の制限又は通常実施権を目的とする質権の設定、移転、変更、消滅若しくは処分の制限は、登録しなければ、第三者に対抗することができない。
特許法100条(差止請求権)
第一項
特許権者又は専用実施権者は、自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
・特許権者は特許権について専用実施権を設定した場合であっても、特許権に基づく差止請求権を行使できる。特100条1項の文言上、特許権者による差止請求権の行使が制限されると解すべき根拠は無く、専用実施権者の売り上げに応じて実施料を定める場合等、特許権者に侵害を除去すべき現実的な利益が存在する上、侵害を放置すると専用実施権が消滅した後に特許権者自らが実施しようとする際に不利益を被る可能性があるからである。
・独占的通常実施権者は固有の差止請求権を備えない(但し、契約により独占状態確保の義務を明示した場合は特許権者に代位して請求できる)。なお、独占的通常実施権者は損害賠償請求はできる。
・生産方法ではない方法の発明においては、物の製造・販売行為を差止できない。
・差止請求は侵害者が善意であっても請求できる。
・直接侵害又は間接侵害が成立しなくとも、侵害の恐れがあれば差し止め請求できる場合がある。
・迅速な救済を受けるため、緊急性がある場合等は仮処分の申請ができる。
第二項
特許権者又は専用実施権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(物を生産する方法の特許発明にあつては、侵害の行為により生じた物を含む。第百二条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。
・侵害の予防に必要な行為とは、担保の提供などである。
・物の廃棄に代えて引渡しを請求することはできない。
・廃棄、除却などを単独で請求することはできない。なお、間接侵害についても廃棄除却請求できる。
・侵害の行為を組成した物とは、例えば製造装置に特許が付与されている場合のその機械のことである。また、侵害の行為に供した物とは、例えば製造方法に特許が付与されているいる場合のその製造装置のことである。
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