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特許法26-30条

 初学者の方は勉強を始める前に、特許庁HPで公開されている初心者向け知的財産権制度説明会のテキストを見て、知的財産権制度の概要を勉強して下さい。なお、地域におけるサービスに関する項目と、様式及び参考に関する項目は、読まなくとも結構です。
 以下、太字部が条文になります。小文字部が条文以外の暗記項目です。

特許法26条(条約の効力)

 特許に関し条約に別段の定があるときは、その規定による。

 ・実2条の5で準用している。

特許法27条(特許原簿への登録)

第一項

 次に掲げる事項は、特許庁に備える特許原簿に登録する。

第一号

 特許権の設定、存続期間の延長、移転、信託による変更、消滅、回復又は処分の制限

 ・処分の制限とは、執行保全のための仮差押、仮処分、税金滞納による差押等、権利の処分行為が制限される場合をいう。
 ・特許権は信託を行うことが可能であるが、登記・登録しなければ第三者に対抗できない。なお、信託の登録とは、特許権が信託財産に属すること並びに信託の目的及び内容等を公示するものであり、特許信託原簿に登録される。


第二号

 専用実施権又は通常実施権の設定、保存、移転、変更、消滅又は処分の制限

 ・保存とは、移転を第三者に対抗するために、移転前に保存の登録をする場合をいう。

第三号

 特許権、専用実施権又は通常実施権を目的とする質権の設定、移転、変更、消滅又は処分の制限

第四号

 仮専用実施権又は仮通常実施権の設定、保存、移転、変更、消滅又は処分の制限

第二項

 特許原簿は、その全部又は一部を磁気テープ(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録して置くことができる物を含む。以下同じ。)をもつて調製することができる。

 ・特許を受けた発明の当該明細書及び図面は特許原簿の一部とみなされる。

第三項

 この法律に規定するもののほか、登録に関して必要な事項は、政令で定める。

特許法28条(特許証の交付)

第一項

 特許庁長官は、特許権の設定の登録があつたとき、又は願書に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは図面の訂正をすべき旨の審決が確定した場合において、その登録があつたときは、特許権者に対し、特許証を交付する。

 ・特許証がなくとも特許権者であることを主張できる。
 ・特許証を譲渡しても、特許権を譲渡することではない。
 ・特許証を有する者を誤信しても保護されない。
 ・訂正審決の確定した場合ではなく、訂正の登録があった場合に特許証が交付される。


第二項

 特許証の再交付については、経済産業省令で定める。

 ・特許証を汚し、損じ、失った時は再交付を請求できる。

特許法29条(特許の要件)

第一項

 産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。

 ・未完成発明は特29条柱書違反として拒絶される。未完成発明とは、当業者が反復実施して技術効果を奏することができる程度に具体的・客観的に構成されていないもの、新しいもの(新規化合物)を創作したが、発明の有用性(用途)が不明である場合(有用性が明細書に記載されていなければならない)等をいう。
 ・選択発明とは、物の構造に基づく効果の予測が困難な技術分野に属する発明で、刊行物において上位概念で表現された発明又は事実上若しくは形式上の選択肢で表現された発明から、その上位概念に包含される下位概念で表現された発明又は当該選択肢の一部を発明を特定するための事項と仮定したときの発明を選択したものであって、前者の発明により新規性が否定されない発明をいう(先行発明では予期できなかった特段の効果を奏する発明に特許を与えることは特許法の精神に合致する)。
 ・用途発明とは、物の特定の性質(属性)を発見し、この性質を専ら利用する発明をいう(既知の物質DDTの殺虫効果を発見した場合の、DDTを利用した殺虫方法の発明など)。
 ・学術的、実験的にのみ利用される発明は除外される。
 ・産業とは、一般的には工業、農業、鉱業等の生産業を意味するが、運輸交通業等の補助産業、洗濯広告業、金融保険業も自然法則を利用した場合は産業に含まれる。医療業(人間を手術、治療、診断する方法)は人道上広く一般に開放すべきであるので含まれない。
 ・市販や営業の可能性のないもの、例えば喫煙方法等の個人的にのみ利用される発明は産業上利用できる発明に該当しない。但し、髪にウェーブをかける方法は業として利用でき、理科の実験セットは市販又は営業の可能性があるため該当する。
 ・発明を特定するための事項に自然法則を利用していない部分があっても、請求項に係る発明が全体として自然法則を利用していると判断されるときは、その発明は、自然法則を利用したものとなる。
 ・天然物から人為的に単離した化学物質、微生物などは、創作したものであり、「発明」に該当する。  ・発明に該当しないものの類型:
 @エネルギー保存の法則、万有引力の法則等の自然法則自体
 A天然物(例、鉱石)、自然現象等の単なる発見
 Bいわゆる永久機関等の自然法則に反するもの
 C経済法則、人為的な取決め、ゲームのルールそれ自体、数学上の公式、人間の精神活動、ビジネスを行う方法等
 D自然法則を利用していないもの
 ・発明に該当しない具体例:
 @コンピュータプログラム言語
 A十円未満を四捨五入して電気料金あるいはガス料金等を徴収する集金方法
 B原油が高価で清水の安価な地域から清水入りコンテナを船倉内に多数積載して出航し、清水が高価で原油の安価な地域へ輸送し、コンテナの陸揚げ後船倉内に原油を積み込み前記出航地へ帰航するようにしたコンテナ船の運航方法
 C予め任意数の電柱を以ってA組とし、同様に同数の電柱によりなるB組、C組、D組等所要数の組をつくり、これらの電柱にそれぞれ同一の拘止具を取付けて広告板を提示し得るようにし、電柱の各組毎に一定期間づつ順次にそれぞれ異なる複数組の広告板を循回掲示することを特徴とする電柱広告方法
 Dボールを指に挟む持ち方とボールの投げ方に特徴を有するフォークボールの投球方法(個人の熟練によって到達しうるものであって、知識として第三者に伝達できる客観性が欠如している、いわゆる技能である)
 E機械の操作方法又は化学物質の使用方法についてのマニュアル
 F録音された音楽にのみ特徴を有するCD
 Gデジタルカメラで撮影された画像データ
 H文書作成装置によって作成した運動会のプログラム
 Iコンピュータプログラムリスト(コンピュータプログラムの紙への印刷、画面への表示などによる提示(リスト)そのもの)等の情報の単なる提示
 J絵画、彫刻等の単なる美的創造物
 K中性子吸収物質を溶融点の比較的高い物質で包み、これを球状とし、その多数を火口底へ投入することによる火山の爆発防止方法
 L発明の課題を解決するための手段によっては、課題を解決することが明らかに不可能なもの(火山の爆発は、火口底においてウラン等が核分裂することに起因することを前提条件としている。)
 ・情報の提示に技術的特徴があるものは、情報の単なる提示にあたらない。例えば、テレビ受像機用のテストチャート(テストチャートそれ自体に技術的特徴がある。)、文字、数字、記号からなる情報を凸状に記録したプラスチックカード(プラスチックカードをエンボス加工して印字し、カードの印字情報を押印することにより写ることができ、情報の提示手段に技術的特徴がある。)。
 ・人間を手術、治療又は診断する方法は、産業上利用することができる発明に該当しない。「人間を手術、治療又は診断する方法」とは、通常、医師(医師の指示を受けた者を含む。以下同じ。)が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法であって、いわゆる「医療行為」と言われているものである。医療機器、医薬自体は、物であり、「人間を手術、治療又は診断する方法」に含まれないが、医療機器(メス等)を用いて人間を手術する方法や、医薬を使用して人間を治療する方法は、「人間を手術、治療又は診断する方法」に該当する。医療機器の作動方法は、医療機器自体に備わる機能を方法として表現したものであり、「人間を手術、治療又は診断する方法」に該当しない。ここでいう医療機器の作動方法には、医療機器内部の制御方法に限らず、医療機器自体に備わる機能的・システム的な作動、例えば、操作信号に従った切開手段の移動や開閉作動あるいは放射線、電磁波、音波等の発信や受信が含まれる。医師の行為(例、医師が症状に応じて処置するために機器を操作する行為)や機器による人体に対する作用(例、機器による患者の特定部位の切開切除)を含む方法は、ここでいう医療機器の作動方法には該当しない。人間から採取したもの(例、血液、尿、皮膚、髪の毛、細胞、組織)を処理する方法、又はこれを分析するなどして各種データを収集する方法は、「人間を手術、治療又は診断する方法」に該当しない。ただし、採取したものを採取した者と同一人に治療のために戻すことを前提にして、採取したものを処理する方法(例、血液透析方法)は、「人間を手術、治療又は診断する方法」に該当する。人間から採取したものを原材料として医薬品(例、血液製剤、ワクチン、遺伝子組換製剤)又は医療材料(例、人工骨、培養皮膚シートなどの、身体の各部分のための人工的代用品または代替物)を製造するための方法は、人間から採取したものを採取した者と同一人に治療のために戻すことを前提にして処理する方法であっても、「人間を手術、治療又は診断する方法」に該当しない。人間に対する避妊、分娩などの処置方法は、上記「人間を手術、治療又は診断する方法」に含まれる。なお、手術、治療又は診断する方法の対象が動物一般であっても、人間が対象に含まれないことが明らかでなければ、「人間を手術、治療又は診断する方法」として取り扱う。
 ・人間を手術する方法は、産業上利用することができる発明に該当しない。人間を手術する方法には、外科的手術方法、採血方法などが含まれる。これには、美容・整形のための手術方法のように、治療や診断を目的としないものも含まれる。また、手術のための予備的処置方法(例、手術のための麻酔方法)も手術と密接不可分なものであるから、人間を手術する方法に含まれる。
 ・人間を治療する方法は、産業上利用することができる発明に該当しない。人間を治療する方法には、@病気の軽減及び抑制のために、患者に投薬、注射、又は物理療法などの手段を施す方法、A人工臓器、義手などの代替器官を取り付ける方法、B病気の予防方法(例、虫歯の予防方法、風邪の予防方法、健康状態を維持するために処置する方法(例、マッサージ方法、指圧方法))、C治療のための予備的処置方法(例、注射部位の消毒方法)、D治療の効果を上げるための補助的処置方法(例、機能回復訓練方法)、E看護のための処置方法(例、床ずれ防止方法)が含まれる。
 ・人間を診断する方法は、産業上利用することができる発明に該当しない。人間を診断する方法には、病気の発見、健康状態の認識等の医療目的で、人間の身体の各器官の構造・機能を計測するなどして各種の資料を収集する方法、及び人間の病状等について判断する方法が含まれる。例えば、病気の発見、健康状態の認識等の医療目的で、人間の内部若しくは外部の状態、又は、人間の各器官の形状若しくは大きさを計測する方法(X 線により人間の内部器官の状態を測定する方法、皮膚のただれ度を測定する方法等)や人間の各器官の構造・機能の計測のための予備的処置方法(心電図をとるための電極の配置方法等)である。
 ・病気の発見、健康状態の認識等の医療目的以外の目的で人間の各器官の構造・機能を計測する方法自体は、人間を診断する方法に当たらない。例1、美容(手術によるものを除く)のために人間の皮膚を測定する方法。例2、服の仕立てのために人間の体格を計測する方法。例3、指輪を作るために人間の指を計測する方法。但し、医療機器の作動方法に該当する方法は、ここでいう「人間を手術、治療又は診断する方法」には含まれない。


第一号

 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明

 ・組合契約において、守秘義務を定めていても、解散後について守秘義務を維持する明文規定がなければ、解散と同時に公知となる。
 ・公然とは、秘密の範囲を脱した状態を意味し、少数の者のみが知っている場合であっても守秘義務を有しない者である場合は公然となる。逆に、多数の者が知っている場合であっても守秘義務を有する場合は公然ではない。
 ・出願前であるので時分まで問題となる。なお、特39条においては日を基準とするので、時分までは問題とならない。
 ・公然知られたとは、守秘義務を負わない不特定人に知られたことをいい、技術的に理解されることを要する。よって、内部に特徴のある発明の外観だけを見られた場合は公知に該当しない。
 ・守秘義務契約を締結していない場合であっても、社会通念上秘密を守ることが期待されると認められる場合は、公知に該当しないと解する。
 ・請求項中に機能・特性等を用いて物を特定しようとする用途限定があり、機能・特性等が、その物が固有に有しているものである場合は、その記載は物を特定するのに役に立っておらず、その物自体を意味しているものと解する。例えば、抗癌性を有する化合物の場合、抗癌性は特定の化合物の固有の性質であるとすると、抗癌性を有するとの記載は、物を特定するのに役に立っておらず、化合物が抗癌性を有することが知られていたか否かにかかわらず、化合物そのものを意味しているものと解され、その化合物が公知であれば新規性が否定される。
 ・請求項中に用途限定があり、その用途に特に適した構造等を意味する場合のように、その用途に特に適した物を意味すると解される場合は、その物は用途限定が意味する構造等を有する物であると解する。したがって、引用発明と、用途限定以外の点で相違しない場合であっても、両者は別異の発明でとなる。例えば、クレーン用フックの発明が、クレーンに用いるのに特に適した大きさや強さ等を持つ構造を有するという、という意味に解される場合は、請求項に係る発明はこのような構造を有する「フック」と解され、同様の形状の釣り針用フックとは別異のものである。


第二号

 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明

第三号

 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明

 ・刊行物とは公衆に対して頒布により公開することを目的として複製された情報伝達媒体をいう。
 ・電気通信回線とは、有線又は無線により双方向に通信可能な電気通信手段を意味し、一方向からしか情報を通信できない放送などは除かれる(双方向からの通信を伝送するケーブルテレビなどは除く)。個人間の私信メール、特定の者のみアクセス可能な情報は公衆に利用可能なものではない。
 ・私文書を多数の友人に配布するために印刷したものは刊行物ではない。限定出版物や非売品、出願明細書の複写物は、公開性、情報性及び頒布性を備えるので刊行物に該当する。対して、秘密出版物には公開性がなく、訴訟記録の複写物には情報性がなく、明細書の原本には頒布性がないので、刊行物には該当しない。
 ・現実に誰かが見たという事実又は現実に誰かがアクセスしたという事実は不要。見たことの立証が困難だからである。
 ・周知技術とは、その技術分野において一般的に知られている技術であり、相当多数の公知文献が存在し又は業界に知れわたり若しくは良く用いられているものをいう。
 ・慣用技術とは、周知技術であって、かつ一般的に用いられているものをいう。
 ・ホームページへのアクセスにパスワードが必要であったり、アクセスが有料である場合でも、その情報の存在及び存在場所を公衆が知ることができ、かつ不特定の者がアクセス可能であれば、公衆に利用可能な情報であるといえる。
 ・公衆に利用可能な情報と認められるものの例
 @サーチエンジンに登録されており検索可能であるもの、関連ある学術団体やニュース等からリンクされている場合又はアドレスが広く一般に知られている新聞や雑誌等の公衆への情報伝達手段にのっているもの
 Aパスワードを入力するのみで不特定の者がアクセス可能であるもの(誰でも所定手続で差別無くパスワードを手に入れてアクセスできれば公衆に利用可能な情報である。)
 B料金を支払うのみで不特定の者がアクセス可能であるもの(誰でも料金のみで差別無くアクセスできれば公衆に利用可能な情報である。)
 ・電子的意匠情報が公衆に利用可能な情報と認められないものの例
 @アドレスが公開されていないために、偶然を除いてはアクセスできないもの
 Aアクセス可能な者が特定の団体・企業の構成員等に制限されており、かつ部外秘の情報の扱いとなっているもの(例えば、社員のみが利用可能な社内システム等)
 B通常解読できない暗号化がされているもの(何らかの手段により誰でも暗号解読のためのツールを入手できる場合を除く。)
 C公衆が情報を見るのに充分なだけの間公開されていないもの


第二項

 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。

 ・当業者が容易に想到しうる発明に対して独占排他権たる特許権を付与することは、技術の進歩に役立たないばかりでなく却って妨げとなるためである。
 ・自然法則や考案を基礎としても進歩性を否定できる。
 ・進歩性の判断は、本願発明の属する技術分野における出願時の技術水準を的確に把握した上で、当業者であればどのようにするかを常に考慮して、引用発明に基づいて当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことの論理づけができるか否かにより行う。具体的には、請求項に係る発明及び引用発明(一又は複数)を認定した後、論理づけに最も適した一の引用発明を選び、請求項に係る発明と引用発明を対比して、請求項に係る発明の発明特定事項と引用発明を特定するための事項との一致点・相違点を明らかにした上で、この引用発明や他の引用発明(周知・慣用技術も含む)の内容及び技術常識から、請求項に係る発明に対して進歩性の存在を否定し得る論理の構築を試みる。論理づけは、種々の観点、広範な観点から行うことが可能である。例えば、請求項に係る発明が、引用発明からの最適材料の選択あるいは設計変更や単なる寄せ集めに該当するかどうか検討したり、あるいは、引用発明の内容に動機づけとなり得るものがあるかどうかを検討する。また、引用発明と比較した有利な効果が明細書等の記載から明確に把握される場合には、進歩性の存在を肯定的に推認するのに役立つ事実として、これを参酌する。その結果、論理づけができた場合は請求項に係る発明の進歩性は否定され、論理づけができない場合、進歩性は否定されない。


特許法29条の2

 特許出願に係る発明が当該特許出願の日前の他の特許出願又は実用新案登録出願であつて当該特許出願後に第六十六条第三項の規定により同項各号に掲げる事項を掲載した特許公報(以下「特許掲載公報」という。)の発行若しくは出願公開又は実用新案法 (昭和三十四年法律第百二十三号)第十四条第三項 の規定により同項 各号に掲げる事項を掲載した実用新案公報(以下「実用新案掲載公報」という。)の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面(第三十六条の二第二項の外国語書面出願にあつては、同条第一項の外国語書面)に記載された発明又は考案(その発明又は考案をした者が当該特許出願に係る発明の発明者と同一の者である場合におけるその発明又は考案を除く。)と同一であるときは、その発明については、前条第一項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。ただし、当該特許出願の時にその出願人と当該他の特許出願又は実用新案登録出願の出願人とが同一の者であるときは、この限りでない。

 ・出願公開後に先願が取下等されても拡大先願の地位は残る。また、出願公開の請求がなされた出願は取下等されても公開されるので、出願公開請求後に取り下げられた出願は拡大先願の地位を有し得る。なお、出願審査請求又は出願公開請求がされていると1年6月前に特許掲載公報の発行又は出願公開されることがある。
 ・分割、変更出願にかかる出願は現実の出願日で拡大先願の地位を取得する。新たな出願時に新規事項が追加されるおそれがあるからである。
 ・国際特許出願、国際実用新案登録出願の場合は国際公開により拡大先願の地位を取得する。
 ・翻訳文未提出により取下擬制された外国語特許出願は、拡大先願の地位を有しない。正規の国内出願としての効果を維持することが手続的に確定されるのが翻訳文提出及び手数料納付等の所定の手続後であるためと、翻訳文を提出していない外国語特許出願は明細書等が存在せず先願の地位を有しないため、又、そのような出願にまで拡大した先願の地位を与えることは適当でないためである。
 ・外国語書面出願、外国語特許出願の場合は、外国語書面の範囲で拡大先願の地位が発生する(翻訳文の範囲ではない)。翻訳文に新規事項が追加されている場合があるからである。
 ・後願の出願時に出願人が同一であれば良い。また、同一発明者には適用されないので、冒認出願の場合は真の発明者に対しては適用されないが、第三者に対しては適用される。なお、特39条の場合は先願の出願人が発明者でなく且つ正当な承継人でなければ、第三者に対しても適用がない。
 ・本条が設けられた理由は、後願が新しい技術を公開するものではなく、先願の請求範囲が確定しなくとも後願の処理ができるようになり(特39条と特29条の2のどちらを用いるかは審査官の裁量)、明細書記載事項で且つ個別権利化の必要がないものでも後願を拒絶できるので防衛出願が減るからである。
 ・パリ優先においては第一国出願日で判断されるので、先の出願が優先権主張出願であれば第一国出願日から拡大先願の地位が発生し、後の出願が優先権主張出願であれば第一国出願後の他人の出願によっては拒絶されない。
 ・明細書の記載の範囲であっても、出願後に補正により追加された事項には拡大先願の地位は発生しない。また、要約書は拡大先願の対象とはならない。
 ・特39条とは、@出願人又は発明者が同一であっても適用され、A特許請求の範囲記載事項が比較対照となり、B同日出願にも適用があり、C特許公報発行又は出願公開の有無を問わずに適用され、D先願が放棄、取下、却下、拒絶査定又は審決確定したときには先願の地位を喪失する点で、相違する。


特許法30条(発明の新規性の喪失の例外)

第一項

 特許を受ける権利を有する者が試験を行い、刊行物に発表し、電気通信回線を通じて発表し、又は特許庁長官が指定する学術団体が開催する研究集会において文書をもつて発表することにより、第二十九条第一項各号の一に該当するに至つた発明は、その該当するに至つた日から六月以内にその者がした特許出願に係る発明についての同条第一項及び第二項の規定の適用については、同条第一項各号の一に該当するに至らなかつたものとみなす。

 ・具体的妥当性に欠け、出願人に酷に過ぎると思われる場合が生ずるからである。具体的には、以下の場合である。
 @試験の場合。出願前に発明の技術的効果を試すことは、出願の慎重を期す上で好ましく、また、発明の性質上、秘密に試験をすることができない場合もあるからである。
 A刊行物発表や電気通信回線を通じた発表の場合。技術の進歩や研究の発展に重要であり、発明の早期公開を目的とする特許制度の趣旨にも合致するからである。
 B研究集会における文書発表の場合。研究のプライオリティは研究者の心理として尊重すべきであり、研究の早期発表が技術の進歩発展に寄与するからである。
 ・国内優先出張出願の場合、先の出願で特30条4項の手続きをしていれば、後の出願が公開から6月後であっても特30条4項の手続きをすることで適用がある。
 ・変更、分割出願の場合、元の出願で特30条4項の手続きをしていれば、子(変更後)の出願で手続きをしなくとも適用がある。逆に元の出願が例外適用の利益を受けていないときは、子(変更後)の出願は発明の発表から6ヶ月以内だった場合でも、例外適用を受けられない。
 ・パリ優先の場合、日本への出願が公開から6月以内でなければ特30条4項の手続きをしても適用がない。
 ・複数回の公開であっても適用できる。但し、最先の公開から6月以内に限られ、それぞれが密接不可分の関係で無い場合には、公開毎に手続きが必要となる。また、刊行物発表後文書をもって発表した場合でも、それぞれの発表についての「証明する書面」を提出すれば適用を受けられる。
 ・特29条2項も例外の適用対象に含まれるので、公開技術と出願発明が同一でなくとも適用を受けられる(進歩性の問題)。
 ・試験は、完成した発明の試験であり、発明をするための試験は含まれない。また、発明の技術的効果を確認するための試験のみと解されるため、利用者の反応を見るための試験は例外適用を受けられない。
 ・公開公報の発行による公知は、特許を受ける権利を有する者が自ら主体的に発表したものではなく、他人が発表することを容認するというような消極的な意思が存在するだけでなので、発表に該当しない。
 ・新聞記者に非公開で説明して新聞に掲載されたが、発表者名が掲載されなかった場合でも例外適用が認められ得る。「刊行物に発表」とは、発表者名を発表することを要するとは解されないので、特許を受ける権利を有する者が発表者であることが証明されれば適用があるからである。なお、新聞記事の複写物と「発明者の説明に基づき、記事を作成した」旨の証明書を、出願日から30日以内に提出する等の手続が必要となる。
 ・共同研究者全員の名前を記名して、その一部の者が発表した場合、単独研究であって発明者名を明記して発明者名にて発明者以外の者が発表した場合、は発表に該当する。
 ・学術団体後援の場合は、学術団体が開催したことにはならない。
 ・特許を受ける権利の承継人も適用を受け得る。
 ・発明の性質上公衆の面前で試験をせざるを得ない場合には限られないが、わざわざ公衆の面前で試験をした場合は試験的販売や宣伝的効果をねらったものとして試験には該当しない。
 ・新聞記者の共同会見(公開)、単なる商品の発表、文書に基づかない口頭発表、テレビを通じた発表、研究集会の付設展示会での発表は、例外適用は受けられない。
 ・掛図、スライド、OHP、ポスター形式のパネル、手持ち原稿に基づく口頭発表は文書の一種とみなされる。この場合、これらの複写物を「証明する書面」の一部として提出すればよい。
 ・発明者による刊行物発表等に起因して他人が無断で、転載、放送、販売等をしても適用を受け得る。
 ・実11条で準用されている。
 ・特許を受ける権利を有する者が公開した後に、特許を受ける権利を承継した者が六月以内に出願した場合も適用を受けられる。


第二項

 特許を受ける権利を有する者の意に反して第二十九条第一項各号の一に該当するに至つた発明も、その該当するに至つた日から六月以内にその者がした特許出願に係る発明についての同条第一項及び第二項の規定の適用については、前項と同様とする。

 ・出願人である会社の代表者の意に反して会社(社長とは別人格)の社員が発表した場合は、意に反して発表されたことに該当する。但し、代表者に一般的注意義務があることが肯定されれば意に反しないことになる。
 ・意に反する公知の場合、証明する書面を出願から30日経過後に提出しても例外が適用される。
 ・冒認出願であっても、それが証明され且つ確定しなければ、冒認出願により拒絶され得る。なお、例外適用をうけることと、冒認出願かどうかの認定とは関係がない。
 ・代理人に出願を依頼して、すでに出願されたと信じて公開したところ実際にはまだ出願されていなかった場合は、公表すべきではないという内面的意思がないため、意に反するとはいえない。


第三項

 特許を受ける権利を有する者が政府若しくは地方公共団体(以下「政府等」という。)が開設する博覧会若しくは政府等以外の者が開設する博覧会であつて特許庁長官が指定するものに、パリ条約の同盟国若しくは世界貿易機関の加盟国の領域内でその政府等若しくはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会に、又はパリ条約の同盟国若しくは世界貿易機関の加盟国のいずれにも該当しない国の領域内でその政府等若しくはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会であつて特許庁長官が指定するものに出品することにより、第二十九条第一項各号の一に該当するに至つた発明も、その該当するに至つた日から六月以内にその者がした特許出願に係る発明についての同条第一項及び第二項の規定の適用については、第一項と同様とする。

 ・博覧会指定を受けるには、開設の日前1月以内に長官に申請書を提出しなければならない(施規22条の2)。一方、学術団体の指定申請については時期的制限はない。
 ・以下の4つ博覧会が規定されている。
 @政府等が開設する博覧会
 A政府等以外の者が開設する博覧会であつて特許庁長官が指定するもの
 Bパリ条約の同盟国若しくは世界貿易機関の加盟国の領域内でその政府等若しくはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会
 Cパリ条約の同盟国若しくは世界貿易機関の加盟国のいずれにも該当しない国の領域内でその政府等若しくはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会であつて且つ特許庁長官が指定するもの


第四項

 第一項又は前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を特許出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第二十九条第一項各号の一に該当するに至つた発明が第一項又は前項の規定の適用を受けることができる発明であることを証明する書面を特許出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない。

 ・例外適用を受ける国際特許出願の出願人は、その旨を記載した書面及び証明する書面を、国内処理基準時の属する日後経済産業省令で定める期間内(30日)に特許庁長官に提出できる。
 ・公開後に特許を受ける権利を一部譲渡した場合、その旨を「納得できる説明をした書面」で証明する。
 ・公開者が、発明者又は出願人と一致している場合、「証明する書面」において、それらの者の関係が証明されていなくとも良い。
 ・発明者、公開者、出願人のすべてが相違する場合は、公開時において公開者が現に「特許を受ける権利」の正当な承継人であることが「証明する書面」によって、出願日から30日以内に証明されていなければならない。
 ・発明者と発表者とが一部相違する場合についての「納得できる説明をした書面」は出願日から30日後であっても提出できる。
 ・複数団体が共催した場合、共催者のうちの一つの指定学術団体が証明したものでも「証明する書面」と認められる。
 ・発表者本人が作成した書面のみでは、「証明する書面」とは認められない。
 ・「証明する書面」が外国語の場合、翻訳文を「証明する書面」と同時提出する必要がある。
 ・「証明する書面」の刊行物の複写には、刊行物名、発行年月日、発表者(発明者)の氏名、発行所、発表した発明の内容、が明示されていることが必要である。
 ・刊行物発表と学会発表の両者が行われた場合は両方の証明書が必要である。しかし、配布された予稿集に記載の発明を研究集会で発表した場合、予稿集による公開を「証明する書面」として提出すれば、研究集会における公開を「証明する書面」の省略が可能である。また、博覧会の出品物に関するカタログ頒布後に出品した場合の、博覧会への出品についても省略が可能である。両者が密接不可分の関係にあるためである。
 ・予稿集がCD-ROMである場合、CD-ROMに記録された内容の印刷物を提出すればよい。ただし、印刷物には、CD-ROMの名称、発行年月日、発表者(発明者)の氏名、発行所、発表された発明の内容の明示が必要。なお、CD-ROMの名称等がCD-ROMに記録されていない場合、CD-ROMに付属されている書類(パッケージも含む)の複写物を「証明する書面」として提出すればよい。
 ・証明する書面は原本を提出する必要があるが、添付される発表に用いた文書は複写物でよい。
 ・複数出願においては、「証明する書面」の原本を一の出願の願書にのみ添付し、他の出願に対しては、それを援用できる。
 ・別々の雑誌社に別々に原稿を渡した後、掲載された場合は、それぞれの掲載についての「証明する書面」を提出すれば適用を受けられる。
 ・意に反する公知である場合であっても、第三者から公知事実の指摘があれば、出願人は意に反することを立証する必要がある。
 ・その旨を記載した書面及び特41条4項のその旨及び先の出願の表示を記載した書面は、願書に記載することで省略できる(施規27条の4)。





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