審決取消請求事件(平成19(行ヒ)223号)の概説

事件の概要

 本事件は、無効審判の請求人(被上告人)が、被請求人(上告人)を商標権者とする商標登録を無効とすることについての審判請求を不成立とした特許庁の審決の取消しを求めた事件です。
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本事件の経緯(概要)

 @被請求人は、「つつみのおひなっこや」の文字を標準文字で横書きして成り、指定商品を「土人形および陶器製の人形」とする登録商標(本件商標)の商標権者である。(現仙台市青葉区堤町で製造される土人形は、江戸時代の堤焼に始まり、「おひなっこ」、「つつみのおひなっこ」とも呼ばれていたが、昭和初期に入ってからは「堤人形」と呼ばれるようになった。)

 A請求人は、いずれも指定商品を「土人形」として、「つゝみ」の太文字を横書きして成る商標(引用商標1)、及び、「堤」の太文字1字から成る商標(引用商標2)の商標権者である。

 B請求人は、本件商標が商4条1項8,10,11,15,16,19号及び商8条の規定に違反してされたものであるとして、無効審判を請求した。そして、「本件商標は引用商標のいずれにも類似しないから商4条1項11号に該当せず、その余の無効理由も認められない」として、審判請求を不成立とする審決がなされた。

 C 原審は、次のとおり判断して、本件商標について商4条1項11号該当性を否定した本件審決は誤りであるとして、本件審決の取消しを求める被上告人の請求を認容した。

 ア.本件審決の当時、堤人形は、仙台市堤町で製造される堤焼の人形として、「土人形および陶器製の人形」の取引者にはよく知られていた。そして、本件商標の「おひなっこや」の部分は、これに接する者に「ひな人形」である「おひな」、東北地方の方言などにみられる接尾語である「こ」及び特定の職業やそれを営む者を表す語である「や」から成る語であると認識される。そうすると、本件商標の「つつみ」の文字部分からは、地名・人名としての「堤」ないし堤人形の「堤」の観念が、「おひなっこや」の文字部分からは、「ひな人形屋」の観念が、それぞれ生じ、全体としては、「堤」という土地・人物の「ひな人形屋」あるいは堤人形の「ひな人形屋」との観念が生じる。したがって、本件商標は、「つつみ」と「おひなっこや」とが組み合わされた結合商標として認識されるものであるが、その構成において「つつみ」の部分を分離することができないほど一体性があるものと認めることはできないから、「つつみ」の部分のみが分離して認識され、そこから、地名・人名としての「堤」ないし堤人形の「堤」の観念を生じるとともに、「ツツミ」のみの称呼をも生じる。

 イ.引用商標からは、いずれも地名・人名としての「堤」ないし堤人形の「堤」の観念を生じるとともに、「ツツミ」の称呼を生じる。そうすると、本件商標と引用商標は全体として類似する商標であると認められるから、本件商標は、引用商標との間で商4条1項11号に該当する。


[前提] 商4条1項11号(先願にかかる他人の登録商標に類似する商標)

 商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの(商4条1項11号)は、商標登録を受けることができない。なお、商標の類否は、同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が、その外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察して判断される(最高裁昭和39(行ツ)110号)。


本事件の要旨

 最高裁は、原審の判断を以下の理由により、否定しました。
 商4条1項11号に係る商標の類否判断において、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されない(最高裁昭和37(オ)953号、最高裁平成3(行ツ)103号)。

 本件についてみるに、本件商標には、称呼については引用商標と同じである「つつみ」という部分が含まれているが、本件商標は「つつみのおひなっこや」の文字を標準文字で横書きして成るものであり、各文字の大きさ及び書体は同一であって、その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものであるから、「つつみ」の部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されてはいない

 また、審決当時、指定商品の取引者には、堤人形が仙台市堤町で製造される堤焼の人形としてよく知られていた。そのため、本件商標の「つつみ」の部分から、地名・人名としての「堤」ないし堤人形の「堤」の観念が生じるとしても、それを超えて、取引者や需要者に対し引用商標の商標権者である請求人が出所である旨を示す識別標識として強く支配的な印象を与えたということはできない。

 さらに、本件商標の「おひなっこや」の部分について、これに接した全国の指定商品の取引者・需要者は、ひな人形ないしそれに関係する物品の製造・販売等を営む者を表す言葉と受け取るとしても、「ひな人形屋」を表すものとして一般に用いられている言葉ではないから、新たに造られた言葉として理解するのが通常である。そうすると、上記部分は、土人形等に密接に関連する一般的・普遍的な文字であるとはいえず、自他商品を識別する機能がないということはできない。

 このほか、本件商標の「つつみ」の部分を取り出して観察することを正当化するような事情はないから、本件商標と引用商標の類否を判断するに当たっては、構成部分全体を対比するのが相当であり、本件商標の構成中の「つつみ」の部分だけを引用商標と比較して本件商標と引用商標の類否を判断することは許されない。そして、本件商標と引用商標は、本件商標を構成する10文字中3文字において共通性を見いだし得るにすぎず、その外観、称呼において異なるものであることは明らかであるから、いずれの商標からも堤人形に関係するものという観念が生じ得るとしても、全体として類似する商標であるということはできない。


私見

 特に目新しい部分はありませんが、商標の類否を問う事例問題の具体例として分かりやすい事例ですので、一読することをお勧めします。なお、商標の全体観察を行う理由として、
 @本件商標は「つつみのおひなっこ」の文字を標準文字で横書きして成り、
 A各文字の大きさ及び書体は同一であって、その全体がまとまりよく表されているものであり、
 B「つつみ」の部分を取り出して観察することを正当化するような事情もないので、
 C構成部分全体を対比するのが相当である(「つつみ」の部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されてはいない)

 という流れは論文作成にも応用できると思いますので、参考にして下さい。

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