映画シェーン事件(平成19(受)1105)の概説

事件の概要

 本事件は、昭和28年に団体の著作名義をもって公表された独創性を有する映画の著作物は、平成16年1月1日から施行された著作権法の一部を改正する法律(平成15年法律第85号)による保護期間の延長措置の対象となる同法附則2条所定の「この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物」に当たらず、その著作権は平成15年12月31日の終了をもって存続期間が満了したとされた事件です。

 本事件において、著名映画「シェーン」の著作権者は、そのDVDの販売等を行う被告に対して、販売等の差止め及び商品等の廃棄、及び損害賠償を求めました。この「シェーン」は、昭和28年に団体の著作名義をもって公表され、、旧著作権法上の保護としては公表後33年を経過するまで(昭和61年12月31日まで)の保護期間が予定されていましたが、昭和46年1月1日の現行著作権法の施行に伴い公表後50年を経過するまで(平成15年12月31日まで)保護されることとなりました。さらに、平成16年1月1日から施行された改正著作権法が適用されれば、保護期間は平成35年12月31日まで延長されたことになります。そして、映画「シェーン」が、この改正著作権法の経過規定にいう「この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物」に該当するか否か(該当しなければ著作権は消滅している)が争点でした。

 つまり、映画の著作権が平成15年12月31日に消滅することが予定されていた場合に、「平成16年1月1日に改正前の著作権法による著作権が存する場合」に該当するか否かが争われました。※詳細は判例検索システムで判決文を検索して下さい。

[前提] 著作権法54条1項

 改正後の著作権法54条1項(映画の著作物の保護期間)には、「映画の著作物の著作権は、その著作物の公表後七十年(その著作物がその創作後七十年以内に公表されなかつたときは、その創作後七十年)を経過するまでの間、存続する。」と規定されています。

 一方、平成15年法律第85号により改正される前の著作権法の同項には、映画の著作物の保護期間を、「原則として公表後50年を経過するまで」と規定されていました。

本事件の要点

 平成15年12月31日の24時と平成16年1月1日の0時とが同一であるという事実に対して、「この法律の施行の際」という文言がいずれを指すのかは不明でした。(法案の提出準備作業を担った文化庁の担当者は、映画の著作物の保護期間が延長される対象に昭和28年に公表された作品が含まれるものと想定していました。)この点、最高裁は、法令の経過規定において、「この法律の施行の際現に」という文言が用いられているのは、新法令の施行日においても継続することとなる旧法令下の事実状態又は法状態が想定される場合に、新法令の施行日において現に継続中の旧法令下の事実状態又は法状態を新法令がどのように取り扱うかを明らかにするためであると判断しました。その上で、「この法律の施行の際現に」という文言が新法令の施行の直前の状態(本事件では平成15年12月31日の24時)を指すものと解することはできない、と認定しました。

 つまり、平成15年12月31日の24時に消滅した著作権は、平成16年1月1日の0時に存する著作権とは認められない、と認定しました。その結果、映画「シェーン」を含め、昭和28年に団体の著作名義をもって公表された独創性を有する映画の著作物は、平成15年法律第85号の改正による保護期間の延長措置の対象となるものではなく、その著作権は平成15年12月31日の終了をもって存続期間が満了し消滅したというべきである、と判断されました。そして、著作権の存続期間が満了していることを理由に著作権者が求めた請求を棄却した原審高裁判決を、是認しました。


私見

 本判決は、12月31日に消滅する旧法令下の事実状態又は法状態が、1月1日に施行された新法令の施行 日においても継続しているとはいえないという、言わば当たり前のことを認定する判決であると思われます。ということで、限定的な事例になるので論文試験には出しにくいと思います。そのため、短答試験対策として「昭和28年に団体の著作名義をもって公表された独創性を有する映画の著作物の著作権は、平成15年12月31日をもって存続期間が満了し消滅した」という結論だけ覚えおけば良いのではないでしょうか。

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