プラバスタチンナトリウム事件(平成22(ネ)10043)の概説

事件の概要

 本事件は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲が争われた事件です。

 本事件において、特許権者は、発明の名称を「プラバスタチンラクトン及びエピプラバスタチンを実質的に含 まないプラバスタチンナトリウム、並びにそれを含む組成物」とする特許権を有しており、被告製品の製造販売の差止め及び在庫品の廃棄を求めていました。そして、被告製品が特許発明の技術的範囲に属するか、及び本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものかが主な争点です。※詳細は判例検索システムで判決文を検索して下さい。


[前提] プロダクト・バイ・プロセス・クレーム

 プロダクト・バイ・プロセス・クレームとは、物の製造方法によって物自体を特定したクレームのことをいいます。そして、従来から、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲については、
(1)物が同一であれば、製造方法の相違にかかわらず技術的範囲に含まれる
(2)クレームに記載された方法と同一の方法によって製造されている物のみが技術的範囲に含まれる
という、2つの解釈がありました。


本事件の要点

 知財高裁(大合議)は、特許権侵害を理由とする差止請求又は損害賠償請求が提起された場合にその基礎となる特許発明の技術的範囲を確定するに当たっては、「特許請求の範囲」記載の文言を基準とすべきである、としました。その上で、「物の発明」に係る特許請求の範囲にその物の「製造方法」が記載されている場合、該発明の技術的範囲は、当該製造方法により製造された物に限定されるものとして解釈・確定されるべきであって、特許請求の範囲に記載された当該製造方法を超えて、他の製造方法を含むものとして解釈・確定されることは許されないのが原則である。と判断しました。

 ただし、物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときには、発明を奨励し産業の発達に寄与することを目的とした特許法1条等の趣旨に照らして、その物の製造方法によって物を特定することも許される(真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)、としました。その上で、物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在する場合には、その技術的範囲は、特許請求の範囲に特定の製造方法が記載されていたとしても、製造方法は物を特定する目的で記載されたものとして、特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく「物」一般に及ぶ、という判断を示しました。

 そして、本件特許発明は、構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するとはいえない(不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)、であると判示しました。その結果、その技術的範囲は本件製法要件によって製造された物に限定され、被告製法が製法要件の一部を充足しないため、被告製品は特許発明の技術的範囲には属さないとされました。

私見

 本判決は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲についての判断を示した重要判例ですので、論文試験において出題される可能性があると思われます。よって、真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム及び不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームの定義と、その技術的範囲については、覚えた方がよいと思います。

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