自由学園事件(平成16(行ヒ)343号)の概説

自由学園事件の概要

 本事件は、「国際自由学園」の登録商標が、商標法4条1項8号の規定に違反するか否か、具体的には「学校法人自由学園」(略称は「自由学園」)を使用する原告の略称により無効となるか否かが争われた事件です。

 特に問題となったのは、原告が使用する「学校法人自由学園」の略称である「自由学園」が、問題とされた登録商標に係る指定商品又は指定役務の需要者である学生等に著名となっていない場合に、著名といえるか否かです。※詳細は判例検索システムで判決文を検索して下さい。


[前提] 4条1項8号

 商標法4条1項8号には、「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」と規定されています。なお、他人には、法人等の団体も含まれます。

 すなわち、法は、一般的出所の混同があれば、具体的出所の混同の可能性があるものとしてその登録を排除しています(商4条1項10〜14号)。しかし、4条1項10〜14号に該当しなくとも、具体的出所の混同を生ずるおそれがある商標を登録することは法目的(商1条)に反することになります。そこで、具体的出所の混同防止のために、統括条項として4条1項15号が規定されています。

 また、商標法47条は、4条1項15号違反を理由とする商標登録の無効の審判について、商標権の設定の登録の日から5年の除斥期間内に請求しなければならない旨を規定しています。これは、4条1項15号の規定に違反する商標登録は無効とされるべきものであるが、商標登録の無効の審判が請求されることなく除斥期間が経過したときは、商標登録がされたことにより生じた既存の継続的な状態を保護するために、商標登録の有効性を争い得ないものとしたためです。


本事件の要点

 最高裁は、商標法4条1項8号の趣旨は、人(法人等の団体を含む。以下同じ。)の肖像、氏名、名称等に対する人格的利益を保護することにあり、人は、自らの承諾なしにその氏名、名称等を商標に使われることがないという利益を保護されていると認定しました。また、その略称についても、一般に氏名、名称と同様に本人を指し示すものとして受け入れられている場合には、本人の氏名、名称と同様に保護に値すると認定しました。

 その上で、人の名称等の略称が商標法4条1項8号にいう「著名な略称」に該当するか否かを判断するについて、常に、問題とされた登録商標に係る指定商品又は指定役務の需要者のみを基準とすることは相当でなく、その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断されるべきと認定しました。

 本事件においては、問題となった略称が教育及びこれに関連する役務に長期間にわたり使用され、その間、書籍、新聞等で度々取り上げられており、該略称は、教育関係者を始めとする知識人の間で、よく知られていました。そのため最高裁は、該略称が使用者を指し示すものとして一般に受け入れられていたと解する余地もあるとしました。そして、該略称が商標権者の登録商標に係る指定役務の需要者の間で広く認識されていないことを主たる理由としては、著名でないとはいえないと判示しました。


私的解説

 具体例で説明するとこういうことです。例えば、学校法人が使用する商標の略称が各種の書籍、新聞、雑誌、テレビ等で用いられている場合に、これらの記事等が、主として教育関係者等の知識人を対象とするものであって、学生、生徒、学校入学を志望する子女及びその者らの父母に向けられたものではない場合、教育関係者を始めとする知識人の間ではよく知られていれば、一般に受け入れられていたと解し得るということです。

 本判決は、商標法4条1項8号にいう「著名」に該当するか否かを判断するについて、問題とされた登録商標に係る指定商品又は指定役務の需要者のみを基準とすることは相当でなく、一般に受け入れられているか否かを基準として判断されるべきと認定した点が重要です。

オリジナルレジュメ

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