eAccess事件(平成16(行ヒ)4号)の概説

事件の概要

 本事件は、商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に分割出願がされ、もとの商標登録出願について指定商品等を削除する補正がされたときには、その補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはないとされた事例です。

 つまり、商標登録出願において、拒絶審決取消訴訟が継続している場合には分割出願が可能である所、その分割と同時に親出願について指定商品等を削除する補正がされたときに、その補正の効果が遡及効を有するか否かが争われました。※詳細は判例検索システムで判決文を検索して下さい。

[前提] 商標法10条1項と4条1項15号

 商標法10条1項には、商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合には、商標登録出願の一部を新たな商標登録出願とすることができる、と規定されています。そして、商標法68条の40第1項には、商標登録出願に関する手続をした者は、事件が審査、登録異議の申立てについての審理、審判又は再審に係属している場合に限り補正をすることができる、と規定されています。

 そのため、拒絶審決取消訴訟が継続している場合、分割出願は可能ですが、商標法上の補正はできません。しかし、商標法施行規則22条4項で読み替えて準用する特許法施行規則30条によれば、分割出願と同時に親出願の願書を補正することが認められているように解釈できます。また、親出願の願書に記載された指定商品等から分割に係る指定商品等を削除する補正は、拒絶審決取消訴訟が継続している場合であっても認められています(ただし、遡及効を有するか否かは不明でした)。

本事件の要点

 商標登録出願人は、親出願の指定役務であるA,Bの役務のうち、拒絶理由があるA役務を指定役務とする新たな商標登録出願(分割出願)を行い、親出願の指定役務をB役務に減縮する補正を行いました。そして、分割出願に伴う補正によって、指定役務が減縮されたから、拒絶審決は取り消されるべきであると主張しました。しかし、最高裁は、商標登録出願についての拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に、商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願(分割出願)がされ、もとの商標登録出願(親出願)について補正がされたときには、その補正は、商標法68条の40第1項が規定する補正ではなく、その効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはない、と認定しました。

 そして、拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合にも補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずるとすると、商標法68条の40第1項が、事件が審査、登録異議の申立てについての審理、審判又は再審に係属している場合以外には補正を認めず、補正ができる時期を制限している趣旨に反することになると、判断しました。さらに、拒絶審決を受けた商標登録出願人は、拒絶理由がない指定商品等について新たな商標登録出願をすれば全体が拒絶されるという不利益を免れることができるため、商標登録出願人の利益が害されることはなく、商標法10条の規定の趣旨に反することはないと、判断しました。

 つまり、商標法68条の40第1項が補正ができる時期を制限している趣旨からすると、拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に、商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願がされ、もとの商標登録出願について願書から指定商品等を削除する補正がされたときには、その補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはない、と認定しました。

私見

 本判決の結果、拒絶審決の時点においては、親出願が補正されていなかったことになりますので、拒絶理由を解消することができなくなります。さらに、分割出願については拒絶理由を有したままの状態となり、いずれも権利化できないという事態になってしまいます。
 
 なお、本判決は、平成18年度論文式試験でも出題されており、非常に重要な事例といえます。そのため、論文、口述試験の対策として、理由及び結論を再現できる程度に覚える必要があります。また、「拒絶理由がある」指定商品等については親出願の審決取り消し訴訟で争い、「拒絶理由がない」指定商品等については分割出願で権利化を図るという点を特に注意して下さい。

オリジナルレジュメ

 参考書・基本書  試験対策・勉強法  改正・判例解説  短答試験  過去問  論文試験  選択科目  選択科目の免除  口述試験  転職  リンク  メールはこちら




 「独学の弁理士講座」TOPへ戻る inserted by FC2 system