特許取消決定取消請求事件(平成19(行ヒ)318号)の概説
事件の概要
本事件は、訂正の請求に係る訂正事項の一部が訂正の要件に適合しないことを理由に、他の訂正事項について判断することなく訂正の全部を認めなかった取消決定に対し、その取消しを求めた事件です。
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本事件の経緯(概要)
@発光ダイオードモジュールに係る特許に対し特許異議の申立てがされた。
A原告は、請求項1を訂正する訂正事項a(特許請求の範囲の減縮)、請求項2を訂正する訂正事項b(明りょうでない記載の釈明)、請求項3及び4を訂正する訂正事項c及びd(誤記の訂正)から成る訂正を請求したが、被告(特許庁)は、訂正が認められないとした上で、特許を取り消す旨の決定をした。なお、決定の理由の要旨は、次のとおりである。
ア訂正事項bは、特許請求の範囲の減縮、誤記又は誤訳の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれをも目的とするものでない。また、特許請求の範囲を実質上拡張するものであるから、その余の訂正事項について判断するまでもなく、訂正事項bを含む訂正は認められない。。
イ訂正前の発明は、当業者が容易に発明をすることができたから、特許を受けることができない。
B原審(知財高裁)は、決定の取消しを求める原告の請求を棄却した。原審では、訂正事項の一部が訂正の要件に適合しないことを理由に、他の訂正事項について判断することなく、訂正の全部を認めなかった取消決定に対し、その判断に違法があるということはできないとした。すなわち、特許権者が複数の訂正箇所のうち一部の箇所について訂正を求める趣旨を特定して明示しない限り、複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正を許すか許さないかの審決又は決定をしなければならず、たとえ客観的には複数の訂正箇所のうちの一部が他の部分と技術的にみて一体不可分の関係になく、かつ、一部の訂正を許すことが請求人にとって実益のあるときであっても、その箇所についてのみ訂正を許す審決又は決定をすることはできないと解するのが相当であるとした。
[前提] 最高裁昭和55年5月1日第一小法廷判決(耕耘機事件)
最高裁は、訂正が実用新案登録請求の範囲に実質的影響を及ぼすものであるときには、明細書等の記載を複数個所にわたって訂正するものであるとしても、これを一体不可分の一個の訂正事項として訂正審判の請求をしているものと解し、複数の訂正箇所のうち一部の箇所についての訂正を求める趣旨が特に明示されていない限り、複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正を許すか許さないかを審決することができるとしました。
本事件の要旨
最高裁は、原審の上記判断に対して次のように判断し、取消決定の一部を取り消しました。
訂正審判に関しては、請求項ごとに可分的な取扱いを定める明文の規定が存しない上、訂正審判請求は一種の新規出願としての実質を有すること(特126条5項、128条参照)にも照らすと、複数の請求項について訂正を求める訂正審判請求は、複数の請求項に係る特許出願の手続と同様、その全体を一体不可分のものとして取り扱うことが予定されているといえる。
これに対し、特許法旧120条の4第2項の規定に基づく訂正の請求(以下「訂正請求」という。)は、特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とするものについて、いわゆる独立特許要件が要求されないなど、訂正審判手続とは異なる取扱いが予定されており、新規出願に準ずる実質を有しない。そして、特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正請求は、請求項ごとに申立てをすることができる特許異議に対する防御手段としての実質を有するものであるから、このような訂正請求をする特許権者は、各請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり、また、このような各請求項ごとの個別の訂正が認められないと、特許異議事件における攻撃防御の均衡を著しく欠く。
以上の諸点にかんがみると、特許異議の申立てについては、各請求項ごとに個別に特許異議の申立てをすることが許されており、各請求項ごとに特許取消しの当否が個別に判断されることに対応して、特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正請求についても、各請求項ごとに個別に訂正請求をすることが許容され、その許否も各請求項ごとに個別に判断されると考えるのが合理的である。
最高裁昭和55年5月1日第一小法廷判決は、いわゆる一部訂正を原則として否定したものであり、その趣旨は、特許請求の範囲の特定の請求項につき複数の訂正事項を含む訂正請求がされている場合には妥当する。しかし、複数の請求項のそれぞれにつき訂正事項が存在する訂正請求において、請求項ごとに訂正の許否を個別に判断する場面にまでその趣旨が及ぶものではない。
以上の点からすると、特許異議申立事件の係属中に複数の請求項に係る訂正請求がされた場合、特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正については、訂正の対象となっている請求項ごとに個別にその許否を判断すべきであり、一部の請求項に係る訂正事項が訂正の要件に適合しないことのみを理由として、他の請求項に係る訂正事項を含む訂正の全部を認めないとすることは許されない。
私見
本判決は、特許無効審判における訂正の請求がなされた場合にも適用できるものと思われます。そのため、実務上は非常に重要であります。また、可能性は低いですが、論文試験で問われる可能性もありますので、複数の請求項に係る訂正請求がされた場合、特許無効審判が請求されている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正については、請求項ごとに個別にその許否を判断し、一部の請求項に係る訂正事項が訂正の要件に適合しないことのみを理由として、他の請求項に係る訂正事項を含む訂正の全部を認めないとすることは許されない、という結論は覚えておきましょう。

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